これからますます進む?仮想通貨
投稿日:2018年10月27日
仮想通貨の意義と日本経済への影響
- はじめに
- 通貨の機能と現状
- 仮想通貨の特徴
- ビットコインとブロックチェーン
- イーサリアム
- 仮想通貨の価値と価格
- 仮想通貨の価値
- 仮想通貨の価格
- 仮想通貨のボラティリティ
- 経済への影響
- 仮想通貨の注意点
- おわりに
1.はじめに
2016 年の通常国会(第 190 回国会)において資金決済法が改正され、ビット コインをはじめとする仮想通貨についての規定が盛り込まれた。これは「仮想 通貨法」とも呼ばれており、2017 年4月1日から施行されている。マネーロン ダリング・テロ資金供与規制や利用者保護規制などの観点から仮想通貨交換業 者(取引所など)に登録制が導入され、仮想通貨のソフトインフラ整備が本格 化した。また同年7月1日からは、仮想通貨の取引(円とビットコインの交換 など)に係る消費税が非課税となった。仮想通貨はビットコインの他にもイーサリアムをはじめ数多く存在し、ウェブサイト情報1では、850種類以上に達している。 仮想通貨はインターネット上のデジタルな無記名の資産であり、広義の金融資産ともいえるが、金融商品取引法上の金融商品には該当しない。「仮想」通貨 というと何か現実のものではない語感があるが、原語は cryptocurrency(暗号 通貨)であり、円やドルなどの法定通貨とは全く異なった暗号技術を用いて創造されるものの、主要なものは法定通貨と交換可能であり、実際に通用する支払手段であることに変わりはない。そして、何よりも仮想通貨はブロックチェー ンという経済社会に大きなインパクトを及ぼし得るイノベーションがもとになっているところに特徴がある。 一部の諸外国では既に取引所の免許制・登録制などが導入されており、我が国でも仮想通貨法で体制整備に踏み出したことから、今後さらに普及していく可能性がある。以上を踏まえ、本稿ではまずイントロダクションとして通貨の機能と現状に触れ、通貨がインターネット化、スマホ化しつつあることを述べる。次にビットコインをはじめとする仮想通貨とブロックチェーンの概要、価値と価格の考え方などについて指摘し、最後に経済のデジタル化が進展する中での通貨の将来について私見を述べたい。
2.通貨の機能と現状
通貨(貨幣)の機能については、従来から価値の尺度、交換手段、価値(富)の保蔵手段の3つが挙げられている。歴史的に見れば、貝殻や穀物、家畜などの物品貨幣から出発し、金や銀などの金属貨幣を経て広く紙幣が用いられるようになった。通貨は国家による保証がないと成立しないと思われがちであるが、米国でも南北戦争まではいわゆる民間貨幣が流通していた。何が通貨化を説明する最大のポイントは一般的受容性であるといってよく、その時代時代で様々な通貨が受け入れられてきた。
上述の通貨にはいずれも物理的な形があるが、形がなければ機能を満たさないわけではない。金融機関の要求払預金、すなわち預金通貨はそれ自体、目に見えるものではないし、IT化の進展で登場した電子マネーやデジタル通貨も同様である。今日では、現金を持ち歩かなくても、クレジットカードで支払いができるようになり、買い物をすれば即時に預金から引き落とされるデビットカードも使われるようになってきた。諸外国ではクレジットカードよりデビットカードの方が一般的な国も多いが、いずれにせよ通貨のカード化の時代が到 来している。 さらに今日では、プリペイド型やポストペイ型の電子マネーが登場し、クレ ジットカードやデビットカードのモバイル決済を含め、スマートフォンでの支払いも次第に浸透してきた。我が国ではまだ定着しているとはいえない状況で あるが5、ケニアなどサブサハラ・アフリカ地域や中国をはじめとする諸外国での普及には目を見張るものがあり、通貨のスマホ化の時代 が到来しようとしている。そしてこのような通貨のスマホ化をさらに推し進める可能性をもった存在が仮想通貨である。
3.仮想通貨の特徴
仮想通貨はビットコインを嚆矢とする。リーマンショック後の 2010年ごろに普及しはじめ、紆余曲折がありながらも次第に浸透していく一方、様々な仮想通貨がICO(株式のIPOに相当するもの。)により出現し種類が増加していった。2017 年8月末現在、仮想通貨全体の市場規模は 17 兆円 に達し(図表1-1、1-2) 、ビットコイン、イーサリアムはそれぞれ8兆円、 4兆円、ビットコイン・キャッシュ、リップル、ライトコイン、ネム、ダッシュ、 アイオータ、モネロ、ネオはそれぞれ1兆円超~1,000 億円超に達している。 ここではビットコイン、イーサリアムの概要について述べるとともに、仮想通貨を支えるブロックチェーン技術の特徴を指摘する。後述するようにブロックチェーンにも様々なタイプがあるが、その代表はビットコインで使われているような、不特定多数の人々が分散型台帳を共有することで改ざんなどの不正を不可能にしているパブリックなブロックチェーンである。
(1)ビットコインとブロックチェーン
①ビットコインの誕生と特徴
ビットコインはリーマンショック直後の 2008 年 10 月、「サトシ・ナカモト」 氏がネット上に公開した論文において構想が示され、2010 年頃から普及しはじめた。同氏が日本人かどうかは諸説があり、今日でも判然としていない。当初は1BTC(単位としてのビットコインを BTC と記述する)が 10 円に満たなかったが、最近では50万円に達することもあり、5万倍の上昇率である。なお、2017年9月には中国の仮想通貨取引所の閉鎖報道があり価格が乱高下しているが、これについては後述する。
想通貨の供給メカニズムは法定通貨とは異なり、当初、仮想通貨の開発者 などに付与されたり、ICO時に資金提供者に対価として供与されたり、あるいは取引の信頼性を保証するためのマイニング(採掘)と呼ばれる活動に対する報酬として付与されたりしている10。ビットコインの場合 には総発行量はあらかじめ 2,100 万 BTC と定められており、これを超えること はない11。マイニングに対する報酬としてのビットコインは指数関数的に減少 していき、約4年毎(21 万ブロック毎)に2分の1になる。当初は1ブロック当たり 50BTC であったが、2012 年 11 月に 25BTC、2016 年7月に 12.5BTC となっ た。これによりビットコインの発行は 2140 年頃に 2,100 万 BTC となり、これ 以上発行されなくなる(図表3)。2017 年8月末現在の発行高は 1,654 万 BTC である12。将来、マイナー(採掘者)は報酬としてビットコインを受け取ること ができなくなっても、取引手数料が収入として残ることから、マイニングひいてはブロックチェーンの維持に特段の問題はないとされるが、手数料のみでマイニングのインセンティブが維持できるかどうかについては疑問視する見方もある。
https://bitinfocharts.com/bitcoin/によれば、1 取引当たりの手数料は平均値で 6.9 ドル、中央値で 4.2 ドルである。
ビットコインのようなデジタル通貨は、インターネットというサイバー空間 上の存在であり、サイバー攻撃に対するセキュリティ対策が不可欠であること から、1970 年代以降米国を中心に開発されてきた暗号技術が用いられている。 乱数を発生させてつくられた個人の暗証番号(秘密鍵といわれる)を、楕円曲 線といわれる曲線を用いて数学的に変換することで公開鍵がつくられ、さらに これをハッシュ関数といわれる、複雑なデータのインプットを要約されたアウ トプット(ハッシュ値)に変換する関数を用いて口座番号(アドレス)がつくられる。これらの変換は不可逆であり、公開鍵から秘密鍵を知ることや、アド レスから公開鍵を知ることはできないため15、公開鍵やアドレスが公開されて も(厳重に管理する限り)秘密鍵は他者に知られることはない。ちなみに秘密鍵、公開鍵、アドレスはいずれも数字とアルファベットの混在列(公開鍵は2 次元の形)で示され、個人を特定することはできない。すなわちビット コインには匿名性がある。 ビットコインの送金16は、秘密鍵で電子署名された送金情報をネットワーク 上で流し、これをネットワークに参加している「ノード」が公開鍵で確認する ことにより行われる17。ノードとは仮想通貨のコンピュータ・ネットワーク上で 他者の送金決済の承認を行う節点であり、要はこのような承認行為を行う意思 を持ってネットワークに参加しているコンピュータのことである。2017 年8月 末現在、世界で 9,000 超存在しており、漸増傾向にある18。ちなみにビットコイ ンの送金というのは、分散型の台帳上にそのデータが記録され、送金者の残高 が減少し受領者の残高が増加することを意味しており、ビットコインが物理的に移動するわけではない。
一般に、仮想通貨の売買は取引所を介して行われる場合が多い。仮想通貨と 同様、取引所もまたネット上の存在であり、2017 年8月末現在で活動している 取引所は我が国では 10 を超え、世界では 100 を超えている19。今日では、主要 国においては免許制・登録制となって規制されている場合も多いが、株式売買 の取引所と比較すれば小規模で分散している印象があり、特に小規模な取引所 では十分な管理を行うことが可能かどうか課題もあるように思われる。取引所 は仮想通貨の将来を考える上で重要なプレーヤーであるが、証券取引所と比較 すれば必ずしも情報公開が十分ではない印象もあり、アカウンタビリティの向 上が期待される。 ビットコインについて述べる上で避けて通れない出来事として、我が国の取引所におけるビットコインの消失事件(マウント・ゴックス事件)がある。2014 年2月、東京を本拠地とし一時は世界最大の取引所であったマウント・ゴック スが突然ビットコインの払い戻しを停止し、同月、民事再生法を申請して経営 破綻した。2015 年8月にはマルク・カルプレスCEOが逮捕され(私電磁的記 録不正作出・同供用、業務上横領容疑)、現在、東京地裁で公判中である。 検察側は同CEOが顧客のビットコインを横領し、残高を水増しするとともに不正に隠蔽したと指摘する一方、被告側はハッキングの被害にあったと主張 している。報道によれば、ハッキングを行ったのはブルガリアの仮想通貨取引 所 BTC-e の関係者とされるが、仮にハッキングがあったとしても、まず問われるべきはそれを許した取引所の管理体制の甘さであろう。なお、本事件により ビットコインの信頼性が損なわれたという報道もみられたが、現金が横領され たり盗まれても現金自体に罪はないのと同様、ビットコイン自体に罪があるわけではない。
②ブロックチェーンとは何か
(マイニングの機能と意義)
ビットコインの特徴は何といってもブロックチェーン、すなわち分散型台帳をつくる技術にある。法定通貨のように物理的に存在する場合には、偽札など偽造を如何に防ぐかが大きな課題となるが、仮想通貨のようなデジタル通貨に おいては、二重支払(同時支払)のような改ざん行為を如何に防ぐかが大きな 課題となる。 ブロックチェーンの信頼性を検証する作業はプルーフ・オブ・ワーク(Po W)といわれ、各ノード(マイナー)がひとかたまりの取引ブロック毎に約 10 分かけて複雑な計算、いわゆるマイニングを行うことで承認される。そして、このプロセスが繰り返されて出来上がったブロックがチェーン(鎖)のように 連なることでオープンな台帳、すなわちブロックチェーンがつくられる。マイナーは他者と計算力を競い、最も速く条件を満たす結果を出したマイナーが報酬としてビットコインを受け取ることができる。ただし、検証されたブロックが承認されるためには、参加しているノードの総計算能力の過半数による承認 が必要である。コンピュータで膨大な計算(PoW)を行うことがなぜ不正防止に役立つか といえば、多大なコストをかけて計算を行わなければ報酬としてのビットコイ ンを獲得できないという仕組みが不正取引の抑止力となるからである。マイニング能力がシステム全体の過半(50%超)を占める不正なマイナーが現れ、 不正行為を行ったブロックを分岐させ正しいブロックとして承認しマイニング し続けてしまえば不正は防止できないようにも思われるが、取引規模が拡大し マイニングコストも増大する中で過半を握るということは考えにくいことである。1ブロックに含まれる取引記録数はバラツキがあるが 1,000~2,000 前後、 全ブロック数は 2017 年8月末現在で約 48 万である。これをネット上に分散するノードが共有、いわば相互監視することで改ざんが防止され、信頼性が確保 される。個々のノードがネット上でつながり、情報交換を行う仕組みはP2P (peer-to-peer)方式と呼ばれ、従来のクライアント・サーバ方式のコンピュー タ・システムの対極をなすものである。 ビットコインはスクリプトといわれるプログラミング言語が用いられ、ソースコードは公開されており(オープンソース)、誰でも確認することができ提案も可能であるが、採択されるためにはコミュニティの支持が必要である。取引 もブロックチェーンの形で全てが公開されており、誰でもネット上で確認する ことができる。常時、世界中の不特定多数の人々の目にさらされ、マイニング という人為的に操作できない純粋な競争原理が貫徹しているからこそ信頼性の あるネットワーク・システムが構築できているのであり、ここに「打たれ強い」 ビットコインの神髄がある。一般的受容性がなくなれば消えていくであろうが、 そうでない限り人為的になくすことはできないのがビットコインである。